あなたの夢で眠りたい

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ボーカリスト末澤誠也の覚醒

この冬、末澤誠也の歌声に震撼した人間はどれほどいただろう。あの、突き抜けるような力強い歌声に。



2021年12月19日、 Aぇ! groupの単独公演を皮切りとして『関西ジャニーズJr.LIVE 2021-2022 THE BEGINNING 狼煙』は幕を開けた。
そこで初披露されたAぇ! groupの新曲『PRIDE』は、今までにないロック色の強いナンバーだった。メロディックパワー系のメタルサウンドで、末澤くんのハイトーンボーカルが非常に印象的な楽曲だ。


もともと、末澤くんは冴え渡るハイトーンボイスが武器のひとつ。その音域の高さを生かしてフェイクや高音パートを担うことも多い。

しかし今回の『PRIDE』は、今までの高音域をはるかに凌駕する最高音HiGの楽曲だ。それを彼はメインボーカルとして、エネルギッシュなパフォーマンスと共に全身で歌い上げている。


あれは正真正銘、「ボーカリスト末澤誠也」としての歌だった。


(追記:良ければパフォーマンス動画先に見ていってください)


メインボーカルとしてのプライド


思い返せばAぇ! groupが結成されてから、末澤くんはずっと「歌に力を入れていきたい」と言っている。
それは彼が「赤を担う人」だからなのではないかと常に考えてきた。


そもそもAぇ! groupは、プロデューサーである横山裕くんの「関ジャニ∞と同じように、何でもできるグループを作りたかった」という意思の基で組まれている。そのため、メンバーカラーも関ジャニ∞のそれと担当楽器がかぶるように指定されているのだ。

ギターは安田くんの青、ベースは丸山くんのオレンジ、ドラムは大倉くんの緑、キーボードは村上くんの紫。
さらに関ジャニ∞が7人体制だった当時、ツーボーカルとして錦戸亮ちゃんが黄色を、そして渋谷すばるくんが赤を担っていた。

メンバーたち本人からはっきりとした言及はないものの、おそらく横山くんのグループ結成の意図は認識しているだろう。


末澤くんは、赤を担った時点で「メインボーカル」という立ち位置になったのだ。



昔からお母さんとカラオケで練習したりボイトレに通っていたりしたこともあり、すでに歌唱スキルが高く、歌は得意だったはずだ。しかしリチャードくんと二人、ダンス面に加えボーカル面でもグループを牽引しなければならない立場は、プレッシャーも喉の負担も大きかっただろう。

事実、2019年冬に行われた初めてのAぇ! group関西単独ツアーでは、4日間連続計7公演の大阪公演終盤、末澤くんのボーカルパフォーマンスはかなり限界だった。
最終日の夜公演で、鳴り止まないWアンコールに対して(真偽のほどは定かでないにしろ)「自分の喉が限界で応えられない。申し訳ない」と頭を下げる場面もあった。

本人も、この時期は主演舞台の稽古と重なっており、1日目から声が出なくなってしまったと後のインタビューで話している*1


それを受け、さまざまなところで喉を強くしたいと話していた末澤くん。「シャウトは負担がかかるが、会場のボルテージが上がる大事なポイントのため、いつでも担える状態でいたい」と話すその言葉には、メインボーカルとしての強い責任感と矜持を感じる。

以来、常に重点的な喉のケアをするようになった彼は、2020年9月の単独Zeppなんば連続10公演でも、2021年夏の松竹座計40公演でも、まったく喉を潰すことなく完走している。



努力で勝ち得たシンデレラボーイ


また、彼は公演をこなすごとに、喉の強さだけではなく歌唱スキルもさらにレベルを上げている。

先の2019年単独ツアー後に行われた、2020年の関西Jr.による年始のコンサートでは、シャッフルメドレーにてなにわ男子の大橋和也くんと二人『もう君以外愛せない』を披露した。
このときに着いていたスタッフはAぇ!の単独公演と同じ方だったといい、「単独のときよりもピッチが安定するようになったと褒められた」と末澤くんは語る。


もちろんそれは末澤くん自身の努力あってのことだ。
これ以前も、これ以降も、彼の努力が結果となって現れているものがたくさんある。

2017年ごろからボイトレに通っていた末澤くんは、2年間で音域を2つ広げるまでになった。
一旦は休んでいたものの、「自分に合う先生が見つかったら再開したい」と言っており、2021年の8月末ごろからまたレッスンを受けている。


その成果はすぐに現れた。
10月1日に行われた『Johnny's village #4』では、小島くん、佐野くんと共に関ジャニ∞の『キミトミタイセカイ』をカバー。ファルセットとチェストボイスが行き来する難しいメロディラインを持つこの曲で、末澤くんはトップラインの高音を柔らかく、丁寧に響かせ賞賛を上げた。

また、同年末のラジオ*2で「音域が3つ上がった」と話し衝撃を与えたのは記憶に新しい。


末澤くんは歌だけでなく、ダンスも演技も秀逸だ。
しかしそれらは全て生まれ持っての才能というよりも、彼がひたむきに努力を積み重ねてきたからこその結果と言える。

もちろん、持ち前のセンスや勘の良さもあるだろう。
飲み込みが早く、課題として与えられたものを昇華してすぐに自分のものにできる柔軟さがある。
そして、それに加え何事も諦めず実直に練習を続けてきた結晶が、彼のパフォーマンスとして現れているのだ。


関西のシンデレラボーイと言われて久しいが、彼はただ急に上から推されるようになったのではない。
日々、こちら側からは想像もつかないような鍛錬を重ね、実力で今の立ち位置を獲得した正真正銘努力型のアイドルなのである。



多彩な声色を持つボーカリスト


そんな彼の歌には、ハイトーンボイス以外にも多くの魅力がある。
その一つが、表現の多様さだ。

末澤くんは歌う楽曲によって声音を変えられるタイプのボーカリストなのではないだろうか。



これはジャニーズJr.特有のことだが、ライブでは先輩グループの楽曲をカバーすることが多い。
特にAぇ! groupは、同じ関西ジャニーズでバンドスタイルを取る関ジャニ∞の楽曲を歌う機会が非常に多く、2019年の単独コンサートから様々な曲をカバーしてきた。

これまでに『T.W.L.』や『DONAI』、『罪と夏』『WASABI』などが披露されている。その中でも末澤くんのボーカルが際立つのはやはりバンドスタイルで演奏される曲だろう。


バンドでの最初のカバーは『West Side!!』だった。この曲はもともと、渋谷すばるによる「West Side――」という力強く伸びやかなシャウトから始まる。
当然、末澤くんも同じように歌っていたが、2019年当時はまだ声も細く、「渋谷すばるの歌い方にがんばって寄せようとしている」という印象が強かった。それは2020年の京セラドーム公演で披露された『勝手に仕上がれ』でも同様のことが言える。


先にも述べたように、末澤誠也渋谷すばるに準えられることが多い。特に二人は声質に似た特性*3を持っているため、像が重なりやすいということもあるのだろう。歌割りもすばるくんのパートを担うことが多かった。

しかし、『勝手に仕上がれ』が発表された当時のすばるくんは34歳。『West Side!!』がリリースされた年でも32歳だ。
この頃のすばるくんの歌声というのは、太くどっしりとした低音がすでに確立されているため、どうしても25歳の末澤くんが歌うと華奢な輪郭が際立ってしまうのだ。迫力に欠けると言ってもいい。それは年齢的な声帯の発達もあるし、経験値も違うのだから当然のことと言えよう。



しかし数年後、末澤くんの歌声に明確な変化が見られた。2021年6月にオンエアされたAぇ! groupのレギュラー番組『THE GREATEST SHOW-NEN 』でのことだ。
第6回公演「銀河鉄道の夜」は、ミュージカル形式を取る演目だ。その中で末澤くんは、正門くん演じるジョバンニの父親役として、漁師を演じている。

漁に向かう荒波のシーンで、末澤くんは芯のある中低音をしっかりと響かせて歌っていた。それまで低い音域はどちらかというとやや不安定になりがちで、がなりも弱いイメージだった彼の歌に、気迫が増していたのだ。

「キャラクターだけで演じた」ためにとても挑戦する部分が大きかった、と話していたこの公演。演技だけではなく、歌の部分でも得るものが多かったのではないだろうか。


そして同年7月30日、『関西ジャニーズJr. Summer Special 2021』の幕が上がった。

二日前になにわ男子のデビューが発表されたこの日から、Aぇ! groupは実質関西Jr.の最前列に立ち、関ジュ全体を引っ張る立場になっている。


その公演の終盤、バンドコーナーで披露された『NOROSHI』の歌と演奏は圧巻だった。凛として強かな歌声、その佇まい。
そして、腹の底を轟かす大太鼓の音も、全身を震わせるバンドサウンドも鳴り止んだ一瞬に歌われる、「手のひらが背に触れた」。

暗雲に迸る閃光のようだった。どこか切なげで、しかし明確な意志を持つソウルフルな歌声は、あのソロパートを担うにもっとも相応しい。


それはまさしく、末澤誠也であって渋谷すばるなのであった。
だが、末澤くんがそう歌ったのは、「渋谷すばる」のソロパートだからではないだろう。おそらく、あの歌い方が最も「楽曲に合った声色」だからなのだ。

2021年7月、末澤くんは自身の歌についてこう語っている。

自分の声については、今後もっと"色"をたくさん持てたらいいなって思ってます。声色だけでお芝居をしたり歌ったりするわけじゃないけど、歌う楽曲によって、または演じる役によって声も違うようにできたら、もっと幅が広がるような気がしてて。

(Stage fan vol.13)


その言葉通り、いまの末澤くんは楽曲によって見事に声の色を変えている。


例えば、SixTONESの『JAPONICA STYLE』や『Special Order』では京本大我くんのような透明感ある涼やかな声で。

KAT-TUNの『Never Again』では赤西仁くんや亀梨和也くんのような艶っぽく色めいた声で。

Kis-My-Ft2の『運命Girl』やHey!Say!JUMPの『White Love』では、北山宏光くんや山田涼介くんのようなキュートで甘さのある声で。


さまざまなグループの、多様なジャンルの曲を歌う今だからこそ、彼の声の表現力は広がりを見せ、その楽曲によってもっとも美しく映える声色で奏でているのだ。



続く旅路への覚悟


それでは、誰の色にも寄らない、末澤くん自身の色が一番濃く出る楽曲とは何か。それこそが、Aぇ! groupのオリジナル曲だと言える。

中でも、冒頭で触れた今回の新曲『PRIDE』は、今までで最も末澤くんのポテンシャルを引き出し、歌唱力を最大限に活かした楽曲だ。


なににしろキーが高い。鬼か地獄かというほどの高音域で構成されたサビ。しかもラスサビではそのさらに上をいくシャウトでたたみかけるのだから驚かされる。
ボーカリスト末澤誠也の、超絶技巧ここに極まれり、である。

さらには、公演を重ねるごとに目に見えてピッチの正確性、声量の大きさ、表現力の広がりが増しているのだから、彼の進化は留まるところを知らない。


なお以下は、『PRIDE』の作曲家・サクマリョウ氏と作詞家・川島亮祐氏の投稿である。
このpostからも、いかにこの曲がハイレベルであるかが伝わってくる。


バケモノピッチ曲というパワーワード



そしてまた、末澤くんの歌声は鮮明かつ正確なだけではない。彼のヘッドボイスはあまりにも華やかで、煽情的なのだ。

末澤くんはこの曲を「毎回死にそうになりながら歌っている」と話していたが、それは恐らく、技術的にギリギリのレベルで歌うのが難しいという意味ではないだろう。

彼はこの歌を、自身の魂を削って歌っているのだと思う。


それほどまでに、『PRIDE』での末澤くんは彼にしか持ち得ない色を全身全霊で体現し、歌い上げている。




またこの曲では、グループとしても非常に挑戦的な試みをしている。
それが歌割りだ。


今までAぇ! groupがバンド形式をとって披露してきた曲は、多少の偏りはありつつも各メンバーが必ずソロパートを担ってきた。
Aぇと同じくバンドを組んでいる関ジャニ∞や7MEN侍も同様の歌割りをすることが非常に多い。

しかしこの『PRIDE』は違う。Aメロの歌い出しからラスサビまで、ほとんど末澤くんがメインボーカルを取っている異例の歌割りだ。
同じくボーカルを取るリチャードくんは基本下ハモで末澤くんの高音を支え、2Aメロやラスサビで力強いラップを披露している。

他のメンバーにソロパートはない。
佐野くんのドラムと大晴くんのベースが激情を煽るような重厚感あるリズムを生み出し、正門くんのギターと小島くんのキーボードが叙情的かつ疾走感溢れるメロディを奏でる。彼らはほぼ楽器の演奏に徹し、曲の世界観を構築しているのだ。


一般的なバンドであれば、メインとなるボーカリストがいて、他のメンバーは楽器を演奏するだけというのは特段珍しいことではない。むしろそれがメジャーなスタイルであろう。

けれどジャニーズにおいて、それはあまり例を見ないことだった。
あくまで彼らはアイドルでありバンドマンではないのだ。特に露出の機会が少ないジャニーズJr.のファンにとっては、「自分の好きなタレントのソロパートはもらってなんぼ」の意識が強い。好きなアイドルの歌っている姿が見たい、声が聴きたいと思うのはファン心理として至極当然のことだ。


だからこそ、今回の歌割りはAぇ! groupにとって大きな挑戦だったに違いない。

これは、今後の道を歩む上での彼らの「覚悟」であり「決意表明」なのだ。


他のバンドと同じスタイルを取るということは、それだけ歌も演奏も秀でていないと成立しない。「アイドルだけどバンドもちょっとできますよ」というような、生半可なものでは許されないのだ。

強靭な歌声を支えられない演奏でもいけないし、派手なバンドサウンドにかき消されてしまう歌でもいけない。そのどちらもプロフェッショナルなレベルにまで達してはじめて、同じスタイルの相手に勝負を挑むことができる。
今のAぇ! groupは、歌も楽器も、それを可能にするだけの力量を持っているのだ。


「Aぇ! groupの武器」のひとつとして、あの末澤くんのハイトーンボーカルを際立たせた強力なバンドスタイルは、他のJr.グループと違った個性を魅せつける非常に大きな要素だ。

この『PRIDE』という曲は、間違いなく"今"の末澤誠也でなければ歌えない。


ジャニーズJr.戦国時代を勝ち抜くための強力な武器。
それをしっかりと携えた末澤くん、そしてAぇ! groupが、これからどんな躍進を遂げるのか。期待に満ちた2022年の幕開けとなった。



1/27、1/30 追記


本日、待ちに待った『PRIDE』のパフォーマンスが収録されたダイジェスト動画がアップされた。
気になった方はぜひ一度再生してみてほしい。

・イントロ〜1サビ

Aぇ! group(Ae! group) "Kansai Johnnys’ Jr. LIVE 2021-2022 THE BEGINNING~NOROSHI~"Highlight Videoより


・落ちサビ〜ラスサビ

関西ジャニーズJr. "Kansai Johnnys’ Jr. LIVE 2021-2022 THE BEGINNING~NOROSHI~" Highlight Videoより



特別お題「わたしの推し

*1:日経ヘルス 2021Summerより

*2:2021年12月28日O.A. 関西ジャニーズJr.のバリバリサウンド

*3:4000Hzあたりの中音域が最も強く出る声。ファンファーレやサイレンの周波数と同じなために声がよく通る