あなたの夢で眠りたい

夢見た未来はまだ来ないけどその日を迎えたい、きみと一緒に。

『THE BOY FROM OZ』に見る末澤誠也の輝き

坂本昌行主演ミュージカル『THE BOY FROM OZ』を観劇した。

この作品には、坂本演じるピーター・アレンの恋人兼ビジネスパートナーであるグレッグ・コンネル役として、末澤誠也が出演している。


末澤は叶えたい夢のひとつに「ブロードウェイミュージカルへの出演」を上げていた。それが本作品で叶ったのである。
しかも、クレジットは坂本昌行紫吹淳に続く3番目だ。名だたるキャスト陣の中に「末澤誠也」の名前がある。

情報の解禁が2月27日だったため、出演を知ってからもう4ヶ月が経とうとしているわけだが、この事実だけでもまだ喜びを噛み締められている。するめよりも味がする。コスパが良い。



さて、この度末澤が演じているグレッグ・コンネルという役は、主人公ピーター・アレンをサポートし、同時にリードする立場でもあり、いかにもテキサス州の出らしいとても強かな男だ。恋にも仕事にも積極的。

そんな役柄だと聞いていたから、ここ最近上がっていたジャニーズJr.チャンネルの末澤誠也の姿を見て、きっと役の影響を受けているのだろうと感じていた。
本作の本読み稽古が始まってから撮られたであろう動画では、元来彼の持っている「男らしさ」「強さ」というのが前面に出ている瞬間が多い。


末澤誠也の持ち合わせるアイドル性は非常に多面的で、「かわいらしさ」「少年性」「無邪気さ」という一面を見せることもあれば、前述した通り、「男々しさ」「勇猛さ」「凛々しさ」をフォーカスすることもある。それらをころころと入れ替え、万華鏡のように多彩な表情を見せるのが彼だ。

実際に今回、グレッグ・コンネルを演ずる姿に、まるで末澤誠也そのままを見ているような錯覚がした。頑固でプライドが高く、けれど自分のテリトリーに入れた人間のことはとても大切にする。そしてピーターの衣装や舞台照明などもプロデュースする、美的感覚に優れた人物。
プロデューサーは本作への起用についてカミオトのパフォーマンスが目に留まったためだと伝えているそうだが、グレッグの人物像に末澤の本質的な部分がぴったりとはまる部分もあったのではないだろうか。

また本人も「舞台期間中はずっとその役のことを考えている」と言っていた。本読みの稽古が始まった5月上旬から、いやもしかしたらその前から、きっと末澤誠也の中には常にグレッグ・コンネルが宿っているのだろう。



そんなグレッグを演じるにあたり、歌の稽古から苦戦していると末澤は言っていた。
ミュージカル特有の発声、普段あまり担わない低音域のメロディライン等々の技術指南。そして、グレッグ・コンネルとして歌うためには「末澤誠也の歌はいらない」と指導されたのだと。

Aぇ! groupでメインボーカルを務める彼の本業はアイドルだ。
アイドルは自分自身が商品である。
末澤誠也」という人間性を表現し、それを売って生きていかなければいけない世界に彼はいる。
それは歌うことに対しても同じだろう。末澤誠也自身の色を出し、他を凌駕するような個性が必要になる。
しかし、ミュージカルで役として歌う場合にはそれが枷になってしまうのだという。
それはそうだ。ミュージカルは、演劇は、「役」を「演じる」ことで成り立っている。そのために「末澤誠也の色」は必要ない。

どれほどの努力がそこにあったのだろう。末澤誠也の色を取り払った「グレッグ・コンネルの歌」は、とても柔らかかった。
末澤誠也の歌を氷砂糖と表現するのなら、グレッグ・コンネルの歌はわたあめだ。声質が持つ特有の甘さは残しながら、剣のある鋭い部分が削ぎ落とされ、深い包容力を宿している。
坂本・末澤のデュオでも、末澤のクセのある部分がなくなっているため二人の歌声がよく調和していて心地良い。二人の声の相性が良いと評価されていたのはこういうことなのだろう。
また、ピーターへの愛を歌う『I Honestly Love You』は特に素敵だった。慈愛に満ちた、おだやかで優しい表情と歌声。それがさらに切々とした感情を胸に掻き立てる。


彼が登場するシーンは、どんなに多く見積もっても30分ほどだ。ピーター・アレンの生涯を150分で描く中での30分。この比率をどう捉えるかは個々人によって変わるだろうが、末澤はこの30分の中でピーターへの愛情、信頼、絆をすべて表現していた。

グレッグは亡くなってしまうが、本幕が下りるまでずっと彼はピーターの心の中に生き続ける。ピーター・アレン最後の台詞「新しいアロハも忘れずに!」までずっと、グレッグはピーターと共にあるのだ。
そのことに説得力を持たせるには、30分の演技にすべてを込めなければならない。これは末澤自身が話していたことだ。個人的感想に過ぎないが、彼は見事にそれを表現していたのではないか。

初めは警戒心を剥き出しにしているグレッグは、『If You Were Wondering』で少しずつ心を解いていく。
この曲を歌い終わったあとの声はすでに剣がなくなっており、次にピーターと二人で揃って登場するときには顔を見合わせて笑ったり小突いたりと、すでに親密な関係に変わっていることがわかるのだ。

そして『Love Don't Need a Reason』に至るまでの二人のやり取り。
死への恐怖をその身に押し込め、ピーターに激白するグレッグの切なさ。二人を深く包む愛情と非情な別れ。
ピーターの手をすり抜けていくグレッグの最期の指さきには、ピーターのステージングを見届けられないことや先立つことへの悔しさ、未練が表れていた。


過去に築き上げてきたキャリアも、その後の自分の人生の時間も全てピーターに捧げたグレッグ。
彼を演じるために去年の秋から努力を重ねてきた末澤は、また一つその努力を結晶化してきらめきを放っていた。
そして彼は今なお成長し続けている。なにせこの二日間、3公演を観劇しただけでも随所に細やかな変化が見られたのだ。

千穐楽にはさらに大きな輝きを抱いて、彼の夢のひとつだったステージに立っていることだろう。